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二代目女将=長谷川たかの時代1916(大正5)年1月7日、旅館東屋の初代女将=長谷川ゑいは、腸閉塞のため鎌倉の病院で没した。2代目女将にはゑいの姉=長谷川たか(多嘉・タカとも)が就いた。たかは長谷川家の次女。長女は夭折したので、実質上長女の役割を果たしていた。ゑいが才色兼備で人気があったのに対し、たかは極めてしっかり者であったといわれる。このたかの一人息子=龍三は、後の画家=長谷川路可であるが、母が二代目女将を嗣いだ頃は、暁星中学を卒業し、東京美術學校入学準備期間、すなわち浪人中だった。 「文士宿」の発展神楽坂箪笥町の名料亭=《吉熊》の女中頭をしていた長谷川 榮(ゑい)は、硯友社などの在京文人に知られており、そのことが東屋が「文士宿」と呼ばれるようになるきっかけになったであろうことは既に第0146話で紹介したところだが、二代目のたかの時代になってもその傾向は続いた。というか、更に発展した。江之島電氣鐵道の開通によって交通アクセスが便利になったこと。それによって別荘地開発が軌道に乗り、一方、貸別荘も各所に造られ、それを借りた若き文化人の活躍も盛んになったことも見逃せない。さらに東屋に隣接して《鵠沼海濱病院》が開設され、転地療養施設としても盛んに利用されるようになった。前にも述べたように、東屋には宿帳が残されていないので、どういう文士がいつからいつまで滞在したのか、明確な記録がない。これまで判明した文士の記録は、小山文雄氏の永年にわたる調査に負うところが多い。 それによると、大正期には次のような文士の止宿、滞在が判明している。
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大正期の東屋に滞在した文人 |
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西暦 | 和暦 | 月 | 日 | 記 事 |
1914 | 大正 3 | 3 | 小説家=谷崎潤一郎(1886-1965)、早川を引き払い東屋の離れに滞在 | |
1914 | 大正 3 | 12 | 30 | ~1915/1.12、武者小路実篤(1885-1976)、東屋で越年。戯曲『その妹』の執筆を開始 |
1915 | 大正 4 | 4 | 25 | 小説家=有島武郎(1878-1923)、鎌倉から鵠沼に行き、東屋で武者小路実篤に会う |
1917 | 大正 6 | 5 | 小説家=久保田万太郎(1889-1963)、祖母と東屋に滞在して『末枯』を執筆→10月三田文学に発表 | |
1918 | 大正 7 | 3 | ~9月、谷崎潤一郎、東屋の離れにせい子と滞在。『金と銀』『小さな王国』を執筆。里見弴と交流 | |
1919 | 大正 8 | 9 | 俳人=松根東洋城(1878-1964)、「渋柿」の同人と仲秋三夜の月を求め、東屋に泊まる。 | |
1920 | 大正 9 | 2 | 末 | ~3月末、武林無想庵(1880-1962)、東屋九号室に滞在。中平文子・内藤千代子と知り合う |
1920 | 大正 9 | 3 | 小説家=宇野浩二(1891-1961)、鵠沼東屋で執筆 | |
1920 | 大正 9 | 6 | 14 | 小説家=近松秋江(1876-1944)・徳田秋声(1871-1943)、中村武羅夫を尋ね東屋に二泊 |
1920 | 大正 9 | 12 | 9 | 歌人=與謝野寛・晶子夫妻、北原白秋・西村伊作らと東屋に泊まる |
1921 | 大正10 | 2 | 26 | 島田清次郎、中村武羅夫宅を訪問、久米正雄・佐佐木茂策と共に東屋で会食 |
1921 | 大正10 | 4 | 小説家=宇野浩二(1891-1961)、東屋に数日滞在。江口 渙の訪問を受ける | |
1921 | 大正10 | 初夏 | 吉屋信子(1896-1973)、東屋に滞在して『海の極みまで』を書きつぐ | |
1921 | 大正10 | 9 | 中 | 思想家=大杉 栄(1885-1923)、東屋に滞在して『自叙伝』を書き始める。吉屋信子と面会 |
1921 | 大正10 | 10 | 宇野浩二、東屋に10日余り滞在。『文学の三十年』に里見・久米・芥川・佐佐木・大杉と面会 | |
1921 | 大正10 | 10 | 江口 渙(1887-1975)、宇野浩二を追って東屋にくる | |
1921 | 大正10 | 11 | 4 | 詩人・小説家=佐藤春夫(1892-1964)、東屋に滞在。『都会の憂鬱』を執筆 |
1921 | 大正10 | 11 | 5 | 思想家=大杉 栄、東屋に滞在中の佐藤春夫を訪問 |
1921 | 大正10 | 秋 | 小説家=徳田秋声(1871- 1943)、東屋に滞在。後に『私の見た人』を執筆 | |
1922 | 大正11 | 2 | 小説家=久米正雄(1891-1952)、東屋に滞在 | |
1922 | 大正11 | 10 | 30 | ~11.3、大杉 栄、東屋に投宿。31日は朝飯がすんだら鎌倉行き |
1922 | 大正11 | 11 | 6 | ~12.2、詩人=北村初雄(1897-1922)、東屋で静養 |
1922 | 大正11 | 12 | 2 | 北村初雄、東屋にて病没 |
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鵠沼を語る会 副会長/鵠沼郷土資料展示室 運営委員 渡部 瞭 |
[参考文献]
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