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江の島道と弁才天道標江の島の弁天信仰は、1182(寿永元)年に源頼朝が文覚上人に命じて、ここに弁才天を勧請したことに始まり、やがて、弁天信仰と風景の美しさから参詣の人々で賑わうようになった。初めは僧侶の信仰が中心だったが、中世には武家、特に後北条氏の信仰が篤く、江の島を保護する。 岩本院は室町時代には岩本坊と称していた。江戸時代の江の島では、江島神社の別当は金亀山江島寺で、下ノ坊、上ノ坊、岩本坊があった。 元禄期頃には江戸の町人文化が盛んになり、大山、江の島、鎌倉、金沢八景を結ぶ参詣観光ルートが人気を集めたことは、落語の「大山詣り」でも知られる。 その頃、盲人の杉山和一が江の島で修行し、鍼の施術法の一つである管鍼(かんしん)法を創始した。 杉山和一は1689(元禄2)年に関八州の当道盲人を統括する「惣禄検校」となり、全部で48基の江の島弁才天道標を江の島道沿いに建てたといわれ、川柳にも詠まれている。全て高さ120cm程度、幅・奥行き20cm程度と共通の規格を持った安山岩製の尖塔角柱型道標で、正面に弁才天の種子である「ソ」と「恵乃之満遍(草書体)」、右面に「一切衆生」左面に「二世安樂」と彫られている。この種の石造物としては彫りが深い。これは、目の不自由な人のためといわれ、いかにも検校の建てたものらしい。開発による破壊や好事家による盗難に遭い、現在残るものは少ないが、藤沢市の江の島弁才天道標12基は1966年1月17日に市指定重要文化財(建造物)に指定された。 鵠沼の弁才天道標鵠沼地区の江の島道は、現在の石上通りである。藤沢駅南口には、かつて江島神社の一の鳥居が大鋸橋のたもとから移されて建っていたという。ここから現在のファミリー通り、石上通りと続くわけだが、この区間には杉山検校の道標は残っていない。かつては建っていたと思われるが、写真はおろか記録さえ残っていないようだ。鵠沼地区の杉山検校道標は、意外な場所に2基残っている。 1基は鵠沼神明の法照寺入口左側で、教育委員会の解説板も添えられている。これはもともとここにあったものではなく、小田急線敷設か日本精工藤沢工場開設の時にここに移されたと思われる。法照寺境内左側にはこうして移された庚申塔などの路傍石造物がおびただしく集められて並んでいる。これもそういったものの一つであろう。元来は鎌倉街道であった湘南高校前の「中学通り」か、六本松付近からわかれて一本松踏切に向かう「江之島裏街道」にあったものと思われる。これは一時期片瀬の方に運ばれて横倒しになっていたものを宿庭の人が見つけて、荷車で運んできて建て直したのだと伺ったことがある。 上記のように、道標の右面には「一切衆生」と彫られているが、法照寺の道標は「一」の字の上にもう一本横棒が彫られ「二」になってしまっている。これは片瀬にあった時代にいたずらされたものらしい。 一本松踏切の南で南東へ向かう道を辿ると、小田急の踏切を渡った先の三叉路橘の辻がある。第0066話でも触れたように、ここにある庚申塔の右面には「右ゑのしまへ」と彫られている。この右手の道は新田集落を抜けて石上の渡しに向かう旧道だった。地図によっては「江之島裏街道」と添えられている。 残るもう1基は、鵠沼海岸7丁目の民家の庭先に建てられている。そのお宅の方の話では、藤沢市道鵠沼海岸線(鵠沼新道)敷設工事の際(1960(昭和35)年頃か?)、横倒しにされ、工事人が弁当を食う腰掛け代わりにされているのを見て、自宅に運んで建てたものだという。 私は、これが元の場所に建っている頃に調査したことがある。鵠沼中学校3年の頃だ。中学では「社会部」に所属し、郷土史の研究調査を行っていた。 1966年1月17日に藤沢市の江の島弁才天道標12基は市指定重要文化財(建造物)に指定されたが、これだけは指定から外れている。 現在、藤沢市役所新館右手奥に3基の道標が並んでいる。うち2基が杉山検校の道標である。そのどちらかが辻堂市民図書館隣家のY家脇から移されたものだという。(残りの1基は藤沢市民病院付近から移されたらしい) 道路の拡張や線路の敷設、工場の設置や区画整理などにより、路傍の石造物が移設される例をよく目にする。これは致し方ないことかも知れないが、移設はなるべく近くに場所を見つけて欲しい。そして、記録をしっかりと残し、どこから移設したものかを説明する表示が必要である。ことに道標は、その性格上なるべく移設は避けたい。 鵠沼海岸7丁目の民家の庭先の場合、市教委から移設の打診があったが、市役所の例を見て、これよりは現在地の方がましだということでお断りになったと聞く。私はこの意見に同調したい。できれば庭先ではなく、道路に面した塀の外側の方がいいとは思うが。理想的には、元来あった場所に近い鵠沼新道と八部公園に行く道の交差点の地下トンネル入口あたりにあるとなお良い。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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