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上杉憲政の家臣=關根孫六『皇国地誌』に「北条氏綱に平井城を陥された上杉憲政が越後に逃げ延びた際、家臣=關根孫六が帰農、土着」とある。これが、普門寺の東方に邸宅を構え、地元では「大關根」と呼び慣わしている關根本家の祖先である。 「上杉憲政(のりまさ)が越後に逃げ延びた」事情をかいつまんで述べておく必要があろう。 上杉憲政は、関東管領を務めた山内上杉家の当主だった。1531(享禄4)年、父の養子=憲寛を追放して山内上杉家の家督を継ぎ、関東管領となって関東一円を支配した。 戦国時代になると、小田原を拠点に関東に覇権を拡大する後北条家との対立が激化し、縁戚を頼り、越後の長尾家の許に身を寄せる。この時、臣下の關根孫六が帰農し、鵠沼に土着することになる。 越後で上杉憲政は長尾家の景虎を養子とし、上杉氏を名乗らせ、関東管領職を譲る。 謙信と改名したこの養子は、やがて甲斐の武田信玄と覇権を争い、敵に塩を贈ったり、鞭聲粛々夜河を渡ったりと、戦国史に数々のエピソードを残すことになる。 ところで、上杉憲政の臣下の關根氏は、鵠沼で帰農した孫六だけでなく、何系統かあったようで、埼玉県志木市宗岡に「関根兵庫館」、埼玉県本庄市児玉町下浅見に「関根館」、茨城県古河市に「関根豪族屋敷」があったり、山形県米沢市に大字関根があったりして興味をそそられるが、「鵠沼を巡る」話ではなさそうなので、深入りはすまい。 鵠沼村最大の關根家1870(明治 3)年の鵠沼村戸口資料にある288戸のうち、關根家は32戸を数え、断然1位である。実にこの時代の鵠沼村の11%が關根家だということになる。この点では、旧家でありながら1戸しか掲載されていない熄シ家と好対照である。また、關根家の分布を見ると、鵠沼村の北半分にしか分布していない。この点では、南に分布の中心がある淺場家と好対照である。 その職業も、名主や豪農があったり、網元(2戸)や藷問屋があったりと様々である。. 明治以降も、皇大神宮宮司と小学校教諭を兼任し、鵠洋小学校長を務められた關根正典氏や市会議員で「鵠沼を語る会」の会員でもあった關根久男氏をはじめ、鵠沼地区の各方面で活躍しておられる關根家の方々を日常的に目にする。 もう一つ興味を惹かれるのは、關根家の家紋は何種類もあるらしいことである。 このことには、鵠沼地区最大の共同墓地「鵠沼墓地」で気づいた。この墓地は、1943(昭和18)年、軍需工場として日本精工藤沢工場が拡張工事を行った際、拡張する敷地にあった野墓(村落墓地)を、万福寺裏手に日本精工が出資して共同墓地を造成し、そこへ移したものである。 そこには關根家の墓地が何軒分もあるのだが、そこに彫られた家紋が何種類もあるのに気づいたのである。 それが何種類であるかについては、未だ調査していない。もちろん關根家の墓地は鵠沼墓地だけでなく他にも各所に散在しているから、全部を調べるのは困難だろうが、いずれ取り組んでみたい課題である。 このように多種類の家紋が見られるのは、かなり古い段階から分家を繰り返した結果だろうと考えられる。 以下に1870(明治 3)年の鵠沼村戸口資料に掲載された關根家を一覧表にしてみた。
名家「大關根」1870(明治 3)年段階での關根本家(宿庭)の当主は關根傳左衛門である。彼の名には、『鵠沼』第89号に「瑙彌一の祖父と父」を執筆した時に出会った。 「明治新政府が次々と新政策を繰り出していた明治5年、山口延之輔は何とも壮大な計画をぶちあげる。相模川の水を與(よせ(相模湖町)から分水し、5里20町余の用水路で引水し、相模原を開拓して7000町歩の畑地を灌漑しようというものであった。陸軍による近代測量に基づく地図が出る10年も前だ。計画は神奈川県・足柄県に出願され、両県の係官立会の許で実地検証がなされ、内務省に伺いを立てるという段階まで進んだが、どうやら資金調達の上で暗礁に乗り上げたらしい。 この計画完成の暁には、更にいくつかの計画が予定されていた。一つは帷子(かたびら)川の河谷を通る水路を設け、山梨県郡内地方(原文では駿甲両國とあるが、駿河は方向が違う)と横浜とを結ぶ通船経路計画であり、もう一つは鵠沼村の海岸付近の平地に相模原灌漑の末水を引き入れて田地を開発しようという目論見である。ことに後者は高座郡鵠沼村關根傳左衛門ほか1名が発起人となっているから、相当本気で考えていたらしい。關根傳左衛門とは、宿庭の普門寺横に屋敷を構え、「大関根」とも呼ばれる関根本家の明治初期の当主の名である。 」 さらに、宮ノ前町内会館の前にある「首塚」を建てたのも關根傳左衛門である。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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