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第0151話 川合玉堂の『清風涼波』

川合玉堂

 川合玉堂(1873-1957)は明治時代から戦後まで活動した愛知県出身の日本画の大家である。
 第0129話でも紹介したが、玉堂は1901(明治34)年8月というから、28歳にして私塾「長流画塾」を主宰した頃だが、「對江館鵠沼」に滞在し、『清風涼波』という絵巻物を制作した。
 全7場面からなる絵巻物で、当時の滞在型海水浴の様子が克明に描かれ、風俗を知る上でも貴重な史料となっている。
 この作品は、現在岐阜県美術館が所蔵しているが、もし、藤沢市に美術館ができたら、真っ先にコレクションして欲しい作品の一つである。繰り返し書くが、藤沢市は公立美術館も博物館もない、全国唯一の40万都市である。

絵巻物『清風涼波』

  • 第一面 旅館に到着し、二階座敷に通された家族連れ。中央に主人公と思しき口ひげの男性が裸になって座り、団扇を使っている、画面左にはその父親と思しき白髪の老人が浴衣に着替えて立ち、右手には丸髷の夫人が着替えの最中である。口ひげの男性の手前には、既に浴衣に着替えた少年がくつろいで座っている。海に面した廊下には、お下げ髪の少女とその弟と思しき少年が、まだ着替えず、海の方を眺めている。座敷には仲居が三人、一人は座って衣服をたたみ、二人は立って荷物を運び上げ、着替えを運んでいる。階段の途中には茶道具を運んでくる仲居の上半身が見える。さほど大きくない黒塗りの座卓が一つ、上には煙草盆とおしぼりが置いてある。庭にはさほど大きくない松の枝が見える。海面ははっきりとは描かれていない。
  • 第二面 湯殿の光景。中央が男湯で右手が女湯、左手は脱衣室である。男湯と女湯の境の扉は開いている。木製の四角い湯船はさほど大きくない。一人が入浴中で、湯船の外の人物と会話している。その手前には猿股一つの三助に背中を流させている男(少年?)、右手には自分で頭を洗っている少年がいる。洗い場の広さは適当に大きい。洗い桶はもちろん木製だが、かなり大きい。右手の女湯では襟首を洗っている丸髷の女性が背中を見せ、その奥には少女らしい姿がちらっと見える。脱衣場と浴室はすぐにつながっていて、仕切りや扉は描かれていない。境には小さい雑巾が一枚とスリッパが二足置かれている。壁にはかなり大きな鏡が張られている。
  • 第三面 夕食の光景。第一面とは違う二階座敷。左手は海に面した廊下手すりには濡れた手ぬぐいが干してあり、風になびいている。右手には床の間があり、掛け軸がかかっているが、手前には客の手荷物と思しきいくつかが置かれている。床を背にして、口ひげの男性が仲居にビールを注いでもらっている。左の海を背にして女性がくつろいだ姿で座卓に向かっている。座卓の右側にはお下げ髪の少女が料理を口に運んでいる。家族は夫婦と少女の三人で、最初のシーンの家族とは違うようだ。浴衣の柄は三人三様である。座卓の脇にはかなり大型の竹細工の行灯が置いてある。手前の廊下には茶道具を片付けて運ぶ仲居の後ろ姿が見える。仲居は草履を履いているが、客はスリッパを用いているようで、廊下に脱いである。
  • 第四面 夜景。庭から一階の客室を望む。客室は手前に一つ、奥に二つある。庭先では子ども連れが手花火に興じている。手前の客室では男が二人、将棋盤を囲んでいる。手前の廊下には第三面と同じ行灯が置かれている。座敷には客の手荷物と麦藁帽子が見える。奥の右側の部屋には蚊帳が吊ってあるのが見え、縁先には浴衣姿の女性が腰をかけ、花火に興じる子どもたちを見ている。奥の左手の部屋では、賑やかそうに小さい子ども連れの家族がゲームをして遊んでいる。碁盤のようなものが見えるが、どんなことをしているかは判然としない。
  • 第五面 朝の洗面。中庭に面した洗面所では三人の男女が顔を洗ったりうがいをしたりしている。手前の廊下に立ち、歯を磨いている男もいる。左手の縁先には夫婦連れらしき男女が見え、夫人は縁先に腰掛け爪を切っているように見える。男性は庭先に降り立ち、それを見ている。右手からは親子連れが洗面に向かう様子が見える。
  • 第六面 海の家の光景。葦簀の屋根と一部葦簀の囲いがある海の家。いくつかの緋毛氈を敷いた縁台が並べてあり、中央におそらくおでんを売る店が開いている。全部で30人を超す男女が描かれている。画面の左には男性が多く、右には女性が多いが、はっきり分かれているわけではない。服装は浴衣が多いが、女性は洋装も見受けられる。全裸の子どももいるが裸の人物は案外少ない。それも男性に限られる。右手では洗濯物を干している。犬も一匹描かれている。
  • 第七面 渚の光景。この画面でも左は男性、右は女性が多く、全部で30人近くの男女が描かれている男性の多くは海の中におり、うち二人は泳いでいて頭しか見えない。よく見ると海岸線に直角方向に1間置きぐらいに海の中に竿が立っており、綱が張られていて、男女別区域になっているらしい。水着は猿股風のものでふんどし姿は見えない(というか、水の中に下半身が入っていて見えない)。虎皮のような縞模様も二人ほどいる。女性の水着は多くは裾の長いワンピース風のもので、色は白が目立つが青や赤もあり多くは無地である。砂浜に寝そべる二人の男も見られる。浮き輪や波乗り板のようなものは見られない。
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鵠沼を語る会 副会長/鵠沼郷土資料展示室 運営委員 渡部 瞭

[参考資料]
  • 川合玉堂:『清風涼波』(1901)
 
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