藤沢検定の検定

 2010年8月以来、インターネット上に「藤沢検定」なるものが公開され、「公式ガイド」も刊行されました。
 この数年、同様の「○○検定」が各地で行われるようになり、一種の流行になっています。
 人々が郷土や他の地域の歴史、自然、文化などに興味関心を示し、新しい知識を得るきっかけになるならば、博物
館・美術館・文学館などに足を運ぶことと同様、はなはだ結構なことだと思います。
 さて、「藤沢検定」ですが、(社)リベラルアーツ推進協会なる組織が企画・制作して公開したもののようです。この組
織は慶應義塾大学「福澤諭吉記念文化塾」の教育・研究プロジェクトを端に設立された社団法人とのことです。
 そもそもの発想がこの組織から生まれたものか、他(例えば藤沢市当局)が発想し、この組織に依頼したものかは
存じませんが、「公式ガイド」に市長が序文を寄せ、藤沢市マスコットキャラクター「カワセミくん」 を使用していることな
どから察すると、藤沢市当局と全く関係なく生まれたものではなさそうです。
 私も「オフィシャルページ」から「お試し版」とやらにアクセスしてみましたが、ランダムに5問ずつ出題される内容に
ついての感想は、「まぁ、こんなもんじゃろう」程度のものでした。
 ところが、知人から「公式ガイド」を拝借して一読したところ、あまりにもその内容に偏りが見受けられ、誤りの多い
ことに一驚させられました。すでにこれは各方面から批判が寄せられ、新聞紙上(10月6日付読売新聞湘南面)にも
紹介されましたし、オフィシャルページにも正誤表が掲載されています。
 この手のものは、誰が作ったとしても主観を交えざるを得ず、ミスも生じやすいのですが、かなり多数の方々が関わ
って作られているようなので、メンバーの人選に偏りがあるのかと存じます。
 そこで思い当たるのは、藤沢市に各分野にわたる学芸員がいないことです。市内にキャンパスを構える4大学の学
部構成は、地元の事情を研究するという観点からは偏っています。むしろ中高校の教員の方が郷土学習に熱心に
取り組まれておられます。幸い慶應義塾湘南藤沢キャンパスには中・高部が併設されているのですから、国語・社会
・理科・芸術などの教員の方々に目を通していただくのも一法かと存じます。
 以下に私の管見から気づいた「公式ガイド」の記述ミスと、最低限の疑問、意見を整理して記述しておきます。 

 その後、藤沢市の手で点検が加えられ、120箇所のミスが指摘され、HR上に正誤表が掲載されましたが、私の見
つけたミスにはまだ修正されていないものも散見されます。当該HPから連絡先を見つけることができませんでしたの
で、ここに記載しておきます。(12月10日追記)

 また、12月10日の市議会における宮戸光議員の質問により、この問題が生じた経緯が明らかにされましたが、それ
を見て驚かされたのは、この「公式ガイド」が発行される前に藤沢市の担当者がかなり長期間にわたって目を通し、点
検したにも関わらず、120箇所もの(私が見るところ、それ以上の)誤りが発行後に指摘されたことです。こういった事態
がなぜ生じたかについては、今後全市をあげて取り組むそうですが、私が見るところ理由は簡単です。これに関して市
の関係者の認識があまりにも浅く、これに関して責任もって取り組む担当がなかったからです。このHPで私が何度となく
指摘したように、「万が一ハコモノがなくとも、学芸員だけは絶対に必要」なわけはまさにそこにあります。
(12月11日追記)

 この件については、12月10日の毎日新聞夕刊とNHK総合テレビ首都圏ニュース845で報道され、市議会のやりとりは
12月11日毎日新聞地方面と神奈川新聞に、さらに12月12日の朝日新聞湘南面でも報道されました。
 ただし、朝日新聞の見出しには「羽鳥小→鳥羽学校…」とありますが、これは間違いです。正誤表で訂正されたもの
にも同様のミスが見られますが、これは藤沢市がLALAに指摘したミスがそのまま掲載されたと思われます。
 「公式ガイド」117ページ10行目に「鳥羽学校」となっているミスは「羽鳥学校」に関するミスで、「羽鳥小学校」に関する
ミスではありません。すなわち、「羽鳥学校」と「羽鳥小学校」とは違うのです。
 「羽鳥学校」とは、小笠原東陽が明治 5年、羽鳥に開いた私塾「読書院」が明治 20年に小学尋常羽鳥学校と改称した
もので、明治 25年に小学尋常辻堂学校と合併し尋常日進小学校と改称し、さらに明治 36年、明治村立尋常高等明治
小学校となったもので、すなわち、現在の藤沢市立明治小学校の前身で、5年間しか存在しなかった校名です。
 なお、名曲「浜辺の歌」の作詞者、林古渓の父親がこの学校で教壇に立っていました。林古渓はまだ幼少でしたが、
この頃の想い出が名曲「浜辺の歌」になったと伝えられます。
 一方の「羽鳥小学校」とは、戦後の昭和47年に開校した藤沢市立羽鳥小学校を指します。(12月12日追記)

『藤沢検定 公式ガイド』の記述ミス

緑字
正誤表で訂正されたもの。赤字=訂正されていないミス。
n
012 1 古代 旧石器時代〜古墳時代 ※歴史学で古代とは奈良・平安期のこと
013 7 都が奈良に定められ、平安時代が始まる 削除
013   南鍛治山 南鍛冶山
015 8 中央の以下の文 不要
016 3 片瀬龍の口で幕府を 幕府を批判したとして龍ノ口で処刑されそうになり
016 9 西富に遊行寺を開山 俣野領内にあった廃寺極楽寺を再興して清浄光寺を開山
 
※西富移転は後
016 12 この戦いで 稲村ヶ崎を経て鎌倉に突入して
018 1 以降不明であったが 兄の大庭景義が嗣ぎ、和田合戦までは大庭氏領として残った。
019 3 だいぎりびき(ルビ) おがびき
019 13 交通の要衝、大山や… 大山や江の島参詣の分岐点としても交通の要衝として
020 2 時宗本山 時宗総本山
022 4 江ノ島電気鉄道 江之島電氣鐵道 ※正確には旧字体
023 17 1895(明治28)年、 1886(明治19)年、鵠沼海岸海水浴場が開かれ、1895(明治28)年には
026   名誉市民 (故)片山 哲(元総理大臣)
(故)降旗徳弥(元松本市長)
(故)内山岩太郎(元神奈川県知事)
(故)深沢松美(元松本市長)
(故)金子小一郎(元藤沢市長)
(故)和合正治(元松本市長)
(故)片岡球子(日本画家)
有賀 正(前松本市長)
(故)加藤東一(日本画家)
田島 博(友禅作家)
岡崎 洋(前神奈川県知事)
(故)葉山 峻(元藤沢市長)
菅谷 昭(松本市長)
山本捷雄(前藤沢市長)
026   はたのあきら(ルビ) はだのあきら
027 下2 晩年、藤沢市に住んだ 外務省辞職後の後半生を鵠沼に居住し、最晩年西鎌倉に転居した。
027 下12 晩年藤沢市に住んだ。 捕虜交換船で帰国し、戦中戦後の数年を鵠沼に住んだ。
030 下17 晩年藤沢で過ごした。 1922(大正11)年結婚以来、終生鵠沼に住んだ。
031 上2 幼少を藤沢で過ごした。 幼少から鵠沼に住み、青年期の一時期を除き鵠沼・辻堂に住んだ。
031 下1 幼少期を藤沢で過ごした 中学生から青年期を鵠沼に住んだ。現在は腰越に居住。
032   えんどうしん(ルビ) えんどうあらた
035   日本三弁財天 日本三大弁財天
036   市指定主要有形文化財 市指定重要有形文化財
038   群猿奉賽像庚申塔 群猿奉賽像の庚申供養塔(ぐんえいほうさいぞうのこうしんくようとう)
038 11 波食大地 隆起海食台
041   真言寺 真言宗
041   (貞和三) 削除
042 5 「神奈川県建築物百選」 「かながわの建築物一〇〇選」
042 12 日本屈指の 日本最大の集客力を誇る
043 10 旧近藤邸  現在の所在地は鵠沼東
044   烏(からす)
044   市の重要文化財史蹟 市指定史跡
044   アーチ型〜展示されている 削除
044 6 皇大神宮 所在地は鵠沼神明
047   国指定重要文化財史跡 国指定史跡
048   市指定重要文化財史跡 市指定史跡
049   本尊の薬師如来坐像は〜された。 本尊の薬師如来坐像は国指定重要文化財
050   さるたひこのかみせきびょう(ルビ) さるたひこおおかみせきびょう
050   4 源義経首洗井戸     所在地は藤沢市藤沢
050   常光寺 所在地は藤沢市藤沢
051 4 市の重要文化財史蹟 市指定史跡
052   2 白旗神社        所在地は藤沢市藤沢
052  14           三尸 ※所在地は下土棚であり、所在地を明記すべき
053   相模の国一三社 相模の国式内一三社
053   1 伊勢山公園       所在地は藤沢市藤沢 ※第一号公園であることを明記すべき
054 1 二基は〜なっている。 二基はそれぞれ市指定重要有形民俗文化財、県指定重要有形民俗文化財に指定されている。
070  13 とは考えられていない。 御幣山に藤が多かったからという説もある。
072   9 全部で九つの  全部で八つの※ここに書くと全部が江の島にあるように誤解される
084 3 江の島水族館 新江ノ島水族館
086 1 藤沢駅北口商店街 藤沢北口周辺商店街
087  5 東京事業高校、湘南団音頭 東京実業高校、湘南台音頭
088   むつあいレンゲ祭 5月上旬 西俣野 石川レンゲの里まつり 4月下旬 石川地区 
091 勝手にシンドバット 勝手にシンドバッド
094 1 60周年 60回目
100   シーエーティヴィ横須賀 シーエーティーヴィ横須賀
100   江の島 江ノ島
100   湘南モノレール湘南江ノ島駅 湘南モノレール湘南江の島駅
102   藤沢医師会 藤沢市医師会
103   藤沢医師会館 藤沢市医師会館
109   4 プロテスタント系の カトリック系の
115   6 1883(明治16)年の…  1882(明治15)年の長後第一浸礼教会創設であり、
115 藤沢高等女学校 藤沢実科高等女学校
115 最終行に追加 また、戦後に聖園女学院中高校が開校した。
117  10 鳥羽学校        羽鳥学校 ※正誤表では羽鳥小学校となっているが、別の学校
119   おしみず(ルビ) おおしみず
125 4 4月現在 5月現在
128 2 衆議員 衆議院
137 2 東久邇宮 久邇宮
137 3 朝香宮姫 朝香宮妃
145 梶山宏司 梶山広司
154  15 高配          交配
158 4 漁業者〜経営体になり 市内には約30の漁業経営体がある。
159  14 地場産業がなく     江の島貝細工の他、農業に関連した製糸業、醸造業が見られたが、
160   1 主な進出企業      進出順に順序を逆にすべきである。

『藤沢検定 公式ガイド』に関する疑問、意見
第一章・歴史に関しては編集方針が統一されておらず、記述に矛盾が多い。
  しっかりした歴史の専門家が目を通したのか疑問である。
  小見出しに丸数字を多用しているが、順序を説明する以外には使用すべきでない。
第二章・偉人に関しては人選が主観的に過ぎ、ビッグネームが落ちている。ジャンル分けも疑問
  なるべく一覧表で表記し、重要なもの、トピックを記述形式にすべきである。
    p026の名誉市民は全員を一覧表にし、文化人を記述形式にすべきである。
    p026の政治家は、少なくとも閣僚、衆参両院議員、県知事は時代別に一覧表にすべきである。
  ジャンル分けに関して芸術として音楽・美術を混在させ、歌人を文学に入れないのは疑問
    p030の林達夫は学者に分類し、長男の林巳奈夫と並記すべきである。
 ※後にWikipediaの「藤沢市」を見て、上記の疑問点の多くがWikipediaを根拠にしたために生じていることが判明しま
  した。Wikipediaは記載者の主観が多く記載されており、きわめて偏りが多く、現段階では信頼性に乏しいものが含
  まれていることは周知の事実です。学生のレポートでも、Wikipediaを鵜呑みにするなという指導はあるはずです。
  他人を「検定」するなら、多角的なソースを確認すべきです。明確な誤りは、私がWikipediaを修正しておきました。

  慶應義塾関係者が編纂したのにダークダックスのメンバーが落ちているのは不可解(笑)
    遠山 一(鵠沼育ち、湘南高校卒)。高見澤 宏(鵠沼在住、藤沢警察署協議会委員)
  名誉市民として紹介している人々も注記すべきである。
  藤沢の市民文化に影響を与えた人物こそ「偉人」として紹介すべきである。
    長谷川路可、黒崎義介(鵠沼公民館育ての親)、福永陽一郎(市民オペラ生みの親)など
  芥川賞・直木賞作家は落とすべきではない。
    中里恒子(藤沢市生まれ)。宮原昭夫(辻堂在住)。川口松太郎(鵠沼に執筆場)
第三章・名所旧跡に関しては位置のずれが目立つ。
     旧近藤邸・皇大神宮→二、片瀬・鵠沼
     源義経首洗井戸・白旗神社・伊勢山公園→三、藤沢・村岡
  県立公園は名所旧跡に入れるべきである。
    湘南海岸公園、辻堂海浜公園、境川遊水地公園(藤沢市側に拡張予定)
第四章・自然に関しては13地区に分けて紹介するのはナンセンスである。
  地域別に紹介するなら、行政区でなく地形区別にしなければ意味がない。
第五章・文化に関しては採り上げ方が主観的すぎ、藤沢市の実態を表していない。
  宗教行事、民間の伝統的年中行事、観光行事や新興のイベントが整理されていない。
  市民オペラやオペラコンクールなどについての記述が少なすぎる。
  公立の博物館・美術館・文学館がない唯一の40万都市であることも藤沢市の特色である。
第六章・暮らしに関しては羅列的記述が多いが、一覧表形式にすべきである。
第七章・教育に関しては著しくバランスを欠いた記述が目立つ。
  学校教育に関しては私立小中学校、公私立高等学校の記述がないのはなぜか。
  せめて一覧表形式で紹介すべきである。
第八章・公共は雑然としている。
  姉妹(友好)都市、市の木・花・鳥、市の行った宣言なども一覧表形式で紹介すべきである。
第九章・スポーツは第五章・文化に含めても良いのではないか。
  サーフィン、ライフセービングは特記すべきであり、ヨット、ダイビング、カヌーなども含まれる。
第一〇章・産業は明治以降戦前の紹介が薄い
  養蚕と製糸業、サツマイモと醸造業、モモの特産品化など。
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